[episode29]閑話・愛についての雑談
- mam
- 9月18日
- 読了時間: 2分
月の家の窓辺。
アオは机に肘をついて、いつものように黒い空をぼんやり眺めていた。静かな時間の中、ふと口から言葉がこぼれる。
「……モモ。きみは、愛について、どう思う?」
何気ない調子だった。けれどモモは読んでいた本をぱたりと閉じて、にやりと口角を上げる。
「ほぉ。急に深いテーマだな。まさか俺に告白でもする気か?」
アオは眉ひとつ動かさない。
「ちがう。ただ……夢主のもとでたくさん見たから」
少し言葉を探すように間を置く。
「そばにいたいと思う気持ちに、形がいくつもあって。好きになったり、そばにいたいと思ったりする。それが同じ種族の生きものなことも多いよね。…その先って、何があるんだろう」
アオがいうところの「同じ種族」とは、男性同士や女性同士、同性のことを指していることはモモにもわかった。思いがけないアオからの問いかけが面白いのか、モモはにやつきながらアオの顔を覗き込む。
「へぇ。なるほどね。そんでお前は、俺たちの関係と比べちゃったわけだ?」
「……そこまでは言ってないでしょ」
アオはそっと視線を外した。不用意につぶやいたことに興味を持たれて恥じているのか、アオはうさ耳の先をパタパタと大袈裟に動かす。
モモはそれを見逃さず、にやにや笑いを深める。
「残念だなぁ、アオ。俺にとっての相棒の席は、お前で満席なんだけど?そういうのが欲しいのか?」
「だから、そういうんじゃないってば。僕だって相棒だと思ってるし」
アオはわずかに拗ねた声で言い、椅子をくるりと回して背中を向けた。
しばしの沈黙。モモは肩をすくめてから、少しだけ真面目な声を混ぜる。
「ま、好きとか愛とかは、形じゃないんだろうな。例えば……そばにいたい。それで十分なんじゃないかと俺は思うよ。今まで見てきた限りでは、それで旅立っていったろ?」
背を向けたままのアオは、静かに「……ふうん」と呟いた。
それ以上追及はしなかったけれど、どこか考え込むように視線を落としている。
誰かとの繋がりや関係性を考える機会など、モモと出会うまではなかった。それゆえに、任務先で目の当たりにする「誰かとの関係性」が気になり始めたところなのだろう。
モモはその様子を横目で見て、ひとりごとのように笑った。
「……ほんっと、お前ってやつはかわいいな」
コメント