![[episode35]眠りの隣](https://static.wixstatic.com/media/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.png/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.webp)
![[episode35]眠りの隣](https://static.wixstatic.com/media/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.png/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.webp)
[episode35]眠りの隣
地上での夜遊びってやつは、たまに妙に長くなる。 人間の夢の中は賑やかで、抜け出すタイミングを見失うんだ。 気づけば帰り道の月は、いつもより静かに見えた。 自分たちの部屋に戻ると── 扉の隙間から、かすかな灯が漏れていた。 アオのやつ、まだ起きてやがる。 「……おーい、寝てねえのか?」 声をかけながら入ると、机に座ったアオが振り向く。 手元では小さな懐中時計が分解されていて、銀の歯車が月光を吸って、淡く光っていた。 「モモ、おかえり」 穏やかな声。眠そうなのに、どこか嬉しそうでもある。 「なにしてんだよ。こんな時間に」 「時計の修理。モモがいなかったから……うまく眠れなくて」 一拍、時間が止まった。 何気ない調子で、そういうことをさらっと言う。 まったく、油断も隙もない。 「子どもかよ。俺がいないと寝られねーのか?」 軽口を叩いてみたけど、胸の奥がじんわり熱いのを誤魔化すには足りなかった。 アオは小さく笑って、歯車をピンセットでつまみながら言う。 「この音、モモが好きだって…言ってたでしょ」 そう言って、時計を耳元で鳴らしてみせた。 チッ、チッ……
11月9日
![[episode34]秋風の残響](https://static.wixstatic.com/media/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.png/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.webp)
![[episode34]秋風の残響](https://static.wixstatic.com/media/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.png/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.webp)
[episode34]秋風の残響
アオが静かに目を開けたとき、そこはどこかの学校の校舎の中だった。 木製の廊下が秋風にきしみ、窓の外には金色に染まった銀杏並木。放課後の陽だまりの中に、黒板の粉がゆっくりと舞っていた。 「ここは……夢主の夢の……。ええと、学校…ってやつかな」 アオの隣で、モモがぼんやりと口を開ける。 「はは、なんか懐かしい感じの建物だな。こういう匂い、アオ好きそう」 「うん。静かで、少し寂しい匂い」 ふたりが歩を進める先、教室の一角に座っている男性がいた。 淡いベージュのカーディガンに包まれたその姿は、どこか疲れたようで、それでも穏やかな笑みを浮かべていた。 彼の名は――結城総司(ゆうき・そうじ)。 高校教師。かつて男女とわず教え子たちに慕われ、静かな人気を誇った文学教師。 だが、今、病室のベッドで息を細くしながら、夢の中で最後の願いを口にしていた。 「彼に……会いたいな。もう一度だけ……」 モモがその声を受け取り、アオに目配せをした。 「叶えてあげようぜ。連れてはこれねえけど、夢を繋ぐくらいならできるだろ」 そうして、夢主の夢と、会いたいと願っている相手が見てい
10月30日
![[epidode33]月の灯が揺れる夜](https://static.wixstatic.com/media/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.jpg/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.webp)
![[epidode33]月の灯が揺れる夜](https://static.wixstatic.com/media/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.jpg/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.webp)
[epidode33]月の灯が揺れる夜
月の裏側にある静かな家。 風がないのに、ススキのような光の粒がゆらゆらと漂っていた。 アオはその中に腰を下ろし、地球を見下ろしていた。 彼の肩が、いつもより少しだけ下がって見える。 今日の夢主は、長く介護をしていた女性だった。 最期に見たのは母の面影。 安らいだ笑顔のまま消えていった彼女を見送ったあと、 アオはぽつりとつぶやいた。 「……どんなにがんばっても、最後はみんな、いなくなっちゃうね」 その声はかすかで、月の空気に溶けていった。 隣に現れたモモは人間の姿。何も言わずにただアオの隣に座る。 彼の手には、湯気を立てるマグカップがふたつ。 「飲め。冷める前にな」 アオは受け取り、両手で包むように持つ。 ほのかな甘い香りが鼻をくすぐった。 「……ありがとう」 静かな沈黙が、ふたりのあいだに落ちる。 しばらくして、モモが低く笑った。 「なあアオ、おまえさ。 自分が“救えなかった”とか思ってるんだろ?」 アオの垂れたうさ耳が、ぴくりと動く。 「……なんで、わかるの」 「顔に書いてある。おまえ、真面目クンだもんな」 そう言ってモモは、マグを口に運ぶ。
10月15日
![[episode32]その日、君に会えたら](https://static.wixstatic.com/media/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.jpg/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.webp)
![[episode32]その日、君に会えたら](https://static.wixstatic.com/media/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.jpg/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.webp)
[episode32]その日、君に会えたら
夜の病室に、秋の月がひっそりと光を落としていた。 点滴の滴る音だけが規則正しく響く中、ベッドに横たわる結城ケイは、まぶたの裏に広がる暗闇へそっと身を委ねていた。 肉体は確実に弱っている。医師から告げられた余命は、指折り数えられるほど。 ―それでも、まだ終わっていない。 そう思った瞬間、淡い光とともに二つの影が現れた。 「こんばんは、ケイさん」 白い兎耳を揺らしながら、アオが柔らかく微笑む。 「僕たちは夢の案内人。あなたの“幸せな記憶”を探しに来たんです」 隣で黒髪のモモが片手をひらひらと振り、「案内人兼ボディガードだ」と軽く笑った。 ケイはかすかに目を見開き、唇を動かす。 「じゃあ……これから、その記憶を一緒に作ってくれない?」 「これから?」アオが瞬きをする。 「うん。まだ死んでない。だけど、時間はもうない。最後に―僕が一番きれいな姿になって、好きな人と過ごしたいんだ」 その瞳は、命が尽きかけているとは思えないほど、澄みきった輝きを宿していた。 アオとモモの力で広がった夢の世界は、秋の夜を思わせる街並みだった。 銀色の月が高く、ススキが風に揺れ
10月13日
![[episode31]双つの命と彼岸花](https://static.wixstatic.com/media/114c79_104954b917334c9d9a7af5d5c013291c~mv2.jpg/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_104954b917334c9d9a7af5d5c013291c~mv2.webp)
![[episode31]双つの命と彼岸花](https://static.wixstatic.com/media/114c79_104954b917334c9d9a7af5d5c013291c~mv2.jpg/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_104954b917334c9d9a7af5d5c013291c~mv2.webp)
[episode31]双つの命と彼岸花
白い天井をぼんやりと見つめながら、肺の奥に溜まった空気をゆっくり吐き出した。 秋分の夜。病室の窓から射す月の光が、点滴の管を淡く照らしている。 胸の奥が痛む。命が削れていく感覚が、もう恐怖ではなく淡い諦めとして身体に馴染んでいた。...
9月25日
![[episode30]君を迎える夜](https://static.wixstatic.com/media/114c79_b8cd9409c62b442b8a2960e4ade896c5~mv2.jpg/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_b8cd9409c62b442b8a2960e4ade896c5~mv2.webp)
![[episode30]君を迎える夜](https://static.wixstatic.com/media/114c79_b8cd9409c62b442b8a2960e4ade896c5~mv2.jpg/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_b8cd9409c62b442b8a2960e4ade896c5~mv2.webp)
[episode30]君を迎える夜
夏の夜の匂いが、夢の中に濃く漂っていた。湿った夜風に混じる線香花火の煙、屋台から流れる甘いソースの匂い。遠くで太鼓の音が響き、ちょうちんの光が並んで揺れている。 アオとモモは、並んでその光景を見つめていた。 今回の夢主は四十代半ばの男性。布団に横たわり、衰えた身体で呼吸を細...
9月22日
![[episode29]閑話・愛についての雑談](https://static.wixstatic.com/media/114c79_4ff459b96d444d888eb203a7b8052a70~mv2.jpg/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_4ff459b96d444d888eb203a7b8052a70~mv2.webp)
![[episode29]閑話・愛についての雑談](https://static.wixstatic.com/media/114c79_4ff459b96d444d888eb203a7b8052a70~mv2.jpg/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_4ff459b96d444d888eb203a7b8052a70~mv2.webp)
[episode29]閑話・愛についての雑談
月の家の窓辺。 アオは机に肘をついて、いつものように黒い空をぼんやり眺めていた。静かな時間の中、ふと口から言葉がこぼれる。 「……モモ。きみは、愛について、どう思う?」 何気ない調子だった。けれどモモは読んでいた本をぱたりと閉じて、にやりと口角を上げる。...
9月18日
![[episode28]消えない旋律](https://static.wixstatic.com/media/114c79_8883d620a06b42a2beb5dbe3d8880c17~mv2.png/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_8883d620a06b42a2beb5dbe3d8880c17~mv2.webp)
![[episode28]消えない旋律](https://static.wixstatic.com/media/114c79_8883d620a06b42a2beb5dbe3d8880c17~mv2.png/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/114c79_8883d620a06b42a2beb5dbe3d8880c17~mv2.webp)
[episode28]消えない旋律
胸の奥が重たく、呼吸は細く途切れ途切れにしか続かない。 病に蝕まれた体はもう、自分のものではないように思えた。 ――もうすぐ終わるのだろうか。 まぶたを閉じたその瞬間、美緒の意識は静かに夢の世界へと沈み込んでいった。 *** 「……来たみたいだね」...
9月16日
![[episode27]名前のない箱](https://static.wixstatic.com/media/114c79_d4cc83857e3e47478471cd54cabb4f1d~mv2.png/v1/fill/w_332,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_d4cc83857e3e47478471cd54cabb4f1d~mv2.webp)
![[episode27]名前のない箱](https://static.wixstatic.com/media/114c79_d4cc83857e3e47478471cd54cabb4f1d~mv2.png/v1/fill/w_299,h_225,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/114c79_d4cc83857e3e47478471cd54cabb4f1d~mv2.webp)
[episode27]名前のない箱
アオは、廃材を両腕に抱えて帰ってきたモモをじっと見ていた。 夢の中で拾ったらしい板切れや木片。どれも色褪せ、角がささくれている。 モモは「そのうち役に立つかもしれねえだろ」と笑って部屋の片隅に置いてどこかへ消えたが、アオの目には、その傷んだ木が不思議と柔らかい光を帯びて見え...
9月8日


[episode26]古書店と失われた手紙
アオが目を開くと、そこは薄暗い古書店の中だった。 棚には古びた本がぎっしりと詰め込まれ、紙とインクの匂いが漂っている。雨の音が外からかすかに聞こえ、窓辺には埃をかぶった便箋の束が置かれていた。 「今回は、…本の匂いか。しかも、どれもこれも古いものばかり…。アオ、お前こういう...
9月3日





![[episode35]眠りの隣](https://static.wixstatic.com/media/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.png/v1/fill/w_298,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.webp)
![[episode35]眠りの隣](https://static.wixstatic.com/media/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.png/v1/fill/w_74,h_62,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/114c79_36843c1ed46d4afab96ca5f1ec659166~mv2.webp)
![[episode34]秋風の残響](https://static.wixstatic.com/media/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.png/v1/fill/w_298,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.webp)
![[episode34]秋風の残響](https://static.wixstatic.com/media/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.png/v1/fill/w_74,h_62,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/114c79_afef7b36deeb4c9ca730c1647ad4a125~mv2.webp)
![[epidode33]月の灯が揺れる夜](https://static.wixstatic.com/media/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.jpg/v1/fill/w_298,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.webp)
![[epidode33]月の灯が揺れる夜](https://static.wixstatic.com/media/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.jpg/v1/fill/w_74,h_62,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_41679b0c7ab344559339ff535741ea4b~mv2.webp)
![[episode32]その日、君に会えたら](https://static.wixstatic.com/media/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.jpg/v1/fill/w_298,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.webp)
![[episode32]その日、君に会えたら](https://static.wixstatic.com/media/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.jpg/v1/fill/w_74,h_62,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/114c79_e00eb18056ba4bd1ba73587c4cc83441~mv2.webp)
